固定残業手当の注意点
- 給与計算2020.07.21
「固定残業手当」とは、事業主が毎月一定の残業時間を想定して、
残業代を固定の給与として支払うもので、残業代の定額払い、みなし残業代などとも言われています。
従業員にとって「固定残業手当」は、想定されている残業時間数よりも早く業務を終えることで、
労働時間数より多くの給与をもらえるというメリットがあります。
また、会社にとっては、残業時間を削減したい場合などに固定残業手当を導入することで、
従業員が業務効率を上げて仕事をするようになり、残業手当の削減に繋がるということもあります。
「固定残業手当」は法律に定められた制度ではなく、会社が任意で実施できる制度ですが、
労働基準法等に違反することがないよう注意が必要です。
注意点①
「固定残業手当」を支給している場合も、想定した時間を超えた場合は、
超過分については残業代を別途支払う必要があります。
例えば、「固定残業手当15時間分」としている場合、
20時間残業をした月は5時間分の残業代を払わなければなりません。
注意点②
残業時間数を超えない場合であっても、実際の残業時間に対する金額が
「固定残業手当」の範囲内に収まっているのか確認する必要があります。
例えば、「固定残業手当15時間分(深夜残業含む)」としている場合に、15時間以内の残業時間であっても、
深夜残業(1.5割増)が発生し、「固定残業手当」の金額を超えた場合は、超過分として支払う必要があります。
注意点③
従業員に対して、何時間分の「固定残業手当」であるか、雇用契約書や給与明細書に明示しておく必要があります。
若者雇用促進法では、「募集や採用に当たって、固定残業代を採用する場合は、
固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、固定残業代を除外した基本給の額、
固定残時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うことなどを明示すること」
が定められています。
注意点④
「固定残業手当」を設定する際、残業時間の単価、金額に注意する必要があります。
月給制の残業代は、月給額を1カ月の所定労働時間数で割って、1時間の給与額を算出し、
1時間の給与額に割増率を掛けた単価に、残業時間数を掛けて算出します。
固定残業手当を逆算したところ、1時間の給与額が最低賃金を下回っていた、
月の所定労働時間数が多かったなどが起こらないよう、注意することが必要があります。
注意点⑤
「固定残業手当」を設定する場合、現状どの程度の残業時間が発生しているか・
発生する見込みかを考慮して、時間数を設定するのがよいと思います。
その場合は、36協定の時間外労働上限を超えないようにすることが必要です。
36協定では、原則月45時間が時間外労働時間の上限です。
特別条項を付けることで月100時間未満までは認められますが、
これは臨時的な特別の理由がある場合に限られます。
そのため45時間を超えない範囲の時間数で設定することが望ましいと考えられます。
注意点⑥
注意点①②からも、「固定残業手当」を採用した場合も、実際の残業時間を把握し、残業代を計算する必要があります。
また、労働安全衛生法では、事業主は健康確保措置を行うために、従業員の労働時間を把握しなければならないと定められており、
安全衛生管理の観点からも、残業時間を把握する必要があります。
「固定残業手当」を支給する際は、主に上記のような注意が必要です。
当給与計算センターでは、「固定残業手当」を採用されたい場合には、
適切なアドバイスを行なってまいりますので、ご相談ください。
社会保険労務士 松田